塾長ブログ

2023.09.05

人は間違えて当然(塾報2月号より)

○書いて覚える
 私が小中学生の頃、漢字は「とにかく書いて覚えよ」と学校の先生に教わりました。漢字練習帳に一つの漢字を10回書くという宿題が連日あって、課題をこなすためには理屈も何も考えずただひたすら書くことに目的と意識が集中していました。それでも反復練習の威力は結構あるのかして、必要な漢字はクラスの多くの生徒が覚えていったのでしょう。
 クラスメイトのAは、「旧」という漢字を10回書く宿題で、まず定規をもってきてマス目の左に「|」を続けて10マス書き、続いてマス目の中央に「|」を10マス、さらに右端に「|」を10マス、次にノートを横長に向きを変えて短めの「|」を一マスにつき3本書いて誰よりも早く仕上げて得意になっていました。下手な脅迫状のできあがりです。
 「10回書く」ことの意味を10回という回数に置くとAのようなことをする人間が出てきます。「覚えるまで書く」のが本来の目的なのでしょうが、一斉に指示を出すには全員に伝わるようなわかりやすさも重要なことから、10回という指定があったのでしょう。
 英単語も同様に「書いて覚える」ことを推奨する指導が多いようです。
○いろいろなタイプ
 では「かけ算九九」はどうでしょうか。また古典の名文の暗記はどうでしょう。
 この2つは書くことに最終目標があるわけではないので、「書いて覚える」よりも口に出して音で覚えたり意味で覚えたりする方法が多くとられています。
 被疑者の容姿を覚えて犯人逮捕に結びつける「見当たり捜査」も犯人の顔を描いて覚えるわけではないと思います。
 自転車の乗り方や自動車の運転、そろばんの計算も「何回も文字に書いて覚える」ものではありません。赤ん坊が色々なものを吸収するときに書いて覚えるのも見たことがありません。
 私たちは何かを覚えるために目的に合った方法をあまり意識することもなく区別して採用していますが、生徒の皆さんに教室で指導するときには少しばかり意識しなければならないポイントがあります。それは、どの感覚が強いかという特性を考慮して指導に当たることです。
 人間には視覚領域が優れているタイプ、聴覚領域が優れているタイプ、体感覚が優れているタイプの3つほどのタイプがあって、それぞれが理屈で覚えるタイプと理屈抜きで覚えるタイプに分かれています。また2つ以上の領域が覚える対象により補完的に作用しあって、効果を発揮する場合もあります。そこに年齢や発達による違い、モチベーションの濃淡も加わってきます。
 連合艦隊司令長官・山本五十六の言葉「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」には、視覚・聴覚・体感覚のすべてを網羅した指導とコーチングの要諦が見事にまとめられていてまさに至言です。
○多様性の尊重
 「書いて覚えよ」と指示する指導者は、自身がそうして覚えてきてうまくいったというほどのことであって、書くよりも目で見て形から入る方が向いている人もいれば、耳から入る情報のほうが理解が早いという人もいます。要するに、人はタイプがバラバラで、だからこそおもしろいのです。人は試行錯誤を繰り返す中で、特性に応じた学習法を自分自身で見つけ出していきます。
 そろばん教室では「視覚に訴えるか聴覚に働きかけるか、あるいは回数をこなして感覚を身につけていくか」を生徒との日々の関わりの中で私たちは一人ひとりに応じた指導方法を探っています。
○個別対応
 指導方法・指導レベルは完全な個別対応です。たとえば5の合成を利用する「2+3」の指導を考えても、言葉や図を示しての具体的な提示をともなう指導をするか既習事項を示してからの示唆にとどめるかはそれまでの生徒の進み方によって異なります。また指導をするにしても、その際に採用する説明方法や言葉は多種類あり、説明にかける時間も生徒によって区別します。少しだけ説明して生徒の反応を待ち、おそるおそるでも正しく指が動き始めるであろう感触を持てた時には、そこで説明を打ち切る場合もあります。
○経験を積む
 カリキュラムはあるものの、進度に期限を定めていない点が学校とそろばん教室との大きな違いです。ですから猛烈な早さで進む生徒がいるかと思えば、遅々として進まない生徒もいます。しかし、進みの遅い生徒はいつまでも遅いままではありません。強烈に伸びたいという意欲を持っていますが、その意欲をうまく表出することができなかったり、伸びたい意欲を打ち消してしまうほどのマイナスイメージをもっていたり、理解しているにもかかわらず自信のなさが意欲にふたをしてしまっている場合に進度が停滞気味になりますが、ある日突然パッと霧が晴れたように進み出すことを誰もが経験します。霧の濃さや霧の晴れ方に程度の差はありますが、その差は実はあまり重要ではなくて、大切なのは「霧が晴れた」という経験が蓄積されていくことです。
 何かに行き詰まって物事が進まず壁にぶち当たったとき、この「霧が晴れたように物事の道筋が見えた」という経験の多寡は生き抜く上でおそらくかなり重要なことだと思います。
 視覚・聴覚・体感覚。3つの感覚のうち、分野に応じて最も適している感覚を自分自身で知り、磨いていくことは、すなわち伸びる方法を自分で獲得していくことに他なりません。
 そろばんの練習を通じて生徒の皆さんは「伸び方・学び方」を身につけていって下さい。
 ご家庭でも子育てでうまくいかないとき、目・耳・体感覚へのアプローチの仕方を変えてみるのも有効ですよ。

 

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